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大阪高等裁判所 昭和24年(を)2830号 判決 1949年12月05日

被告人

飯田義親

主文

本件控訴を棄却する。

当審の未決勾留日数中百日を本刑に算入する。

理由

本件控訴の理由は末尾添付の弁護人稻田喜代治提出の控訴趣意書の通りである。

第一点について。

所論前段は原判決の冒頭に明示している通り「被告人は昭和二十三年十月から金銭の受入保管支拂等の事務に從事していた」ので、從つて判示第三の手提金庫は被告人の業務保管に係るものであるから之を持ち出した行爲を窃盜罪に問擬しているのは明かに判決に前後くいちがいがあると言うのである。しかし、所論の手提金庫は判示会社工場の備品であつて夜間は同工場應接室に設置の大金庫の中に保管しておくべきものであるから被告人はその担当業務の性質上工場の備品たる手提金庫の使用を許されているに過ぎないのであつて夜間は勿論晝間といえども手提金庫に対する事実上の支配は同工場長たる叶田昌作が有していたものと言うべく少くとも被告人は同工場長と上下主從の関係においてのみ事実上の支配を有するに過ぎないものと解すべきである。從つて被告人がかような主たる支配を排して、不法に領得する意思で之を持ち出したときは窃盜罪に問擬されるのは当然である。次に所論後段について判断するに、窃盜罪の成立に領得の意思を必要とすることは所論の通りであつて、領得の意思とは権利者を排斥して他人の物を自己の所有物として経済的用方に從つて利用若くは処分する意思、換言すれば他人の物を事実上自己の完全な支配に移し之を使用処分して自ら所有者の実を挙ぐる意思であつて、永久的にその物の経済的利益を保持するの意思たることを要しないのである。原判決挙示の証拠によれば被告人は自己のこれまでの犯行を隠蔽するため大金庫内から本件手提金庫を取り出し現場から二百数十米はなれた河中に投棄したと言うのであるから之を前の説明に照し被告人は終局的に被害者の所持を奪い、之を処分して自ら所有者の実を挙ぐる意思即ち不正領得の意思あつたものと解すべくその行爲は明かに窃盜罪を構成するのである。論旨は理由がない。

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